芝居をやめられない理由

演衆やむなし第一回公演「楽屋 ―流れ去るものはやがてなつかしき―」

演劇は「面倒」なものです。
時間をかけて何度も稽古を繰り返し、お客様には決まった時間に会場までわざわざ足を運んでいただかなくてはならない。手間がかかります。

だけど、私は、やめられない。

稽古場では、俳優と向き合い、「もっと間(ま)をとって」「もっと右に」、その「もっと」はどのくらいがちょうどよいのか、なんてことをお互いに確かめ合いながら稽古を進めます。言葉や身振りを通わせ合いながら。そうして出来上がった作品を、こんどはお客様に観ていただく。お客様は俳優の言葉や身振りを通して、また、俳優たちはお客様の視線や息づかいを感じながら。作品を体感していく。

だから、私は、やめられない、のかなと思います。

私たちは地球の裏側の出来事も手のひらの端末で瞬時に知ることができますが、ときどき、それが身の丈に余るように感じることが、私にはあります。体感できないことを知りすぎると、身体感覚がおかしくなるというか。

私の場合、演劇を創ることで、そのバランスをとっているのだと思います。目の前の俳優やお客様と、言葉や身振りを通わせながら、視線や息づかいを感じながら。

このたびは、演衆やむなしの第一回公演にご来場くださいまして、まことにありがとうございます。お客様にとって演劇を観るというのはどんな時間でしょうか。本日のご観劇がお客様の豊かな人生のひとこまになれば幸いです。最後までごゆっくりお過ごしください。

中埜浩之

※演衆やむなし第一回公演「楽屋 ―流れ去るものはやがてなつかしき―」(2015年11月13日~15日、19日~22日/FLAT 2F)当日パンフレットより

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