またそれぞれの生活へ

市民劇「雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた」

演出ノート

「ロミオとジュリエット」といえば誰もがその名を知る恋愛物語で、ふたりは盲目的なほどにお互いを信じあっている。「石楠花少女歌劇団」の盟友、風吹景子と弥生俊もまた三十年以上離れ離れになりながらも、お互いの存在を信じ続けてきた。
信じられる、信じ続けられる誰かがいるからこそ、人はたとえひとりでも、強くやさしく生きていくことができるのだろう。

膨大なセリフ量とシーン展開。市民劇で挑むのは一見無謀にすら見えるかもしれない。しかし、これはむしろ市民劇でこそ上演すべき作品だ。稽古を進めるうちに、その思いを強くしてきた。

約90年前の「だるまや少女歌劇」、劇中の「石楠花少女歌劇団」、そして今回の「市民劇」は相似形であり、つながっている。出演者たちは舞台を経て、またそれぞれの生活へと還っていく。舞台の上で、信じ続けられる何かときっと出逢ってくれることだろう。

そしてこの舞台が、立ち会ってくださる観客の皆さまのあすからの生活の糧のひとつにでもなれば、これに勝る喜びはない。

中埜コウシ

 

※市民劇「雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた」(2022年12月24日・25日/ハピリンホール)当日パンフレットより